時に、誰かとの出会いは、人生を大きく変えることがある。
今では当たり前になった「推し活」という言葉。その始まりには、いつだって一人のアイドルとの出会いがある。
私にとってそれは——でんぱ組.incの夢眠ねむだった。
初めて出会ったライブの熱気、推し続けた日々、そして卒業公演で流した涙。
この文章では、私の“推し活の軌跡”をたどりながら、夢眠ねむという存在が残した光を振り返る。
2014年|でんぱ組.incとの出会いと衝撃
私がでんぱ組.incと出会ったのは、2014年5月4日。
偶然か、それとも運命だったのか——その日、私は横浜・山下公園にいた。
「横浜開港記念みなと祭 ヨコハマ カワイイパーク J-Pop Culture Festival 2014」というフリーライブが開催されると知り、「無料なら行ってみよう」と軽い気持ちで足を運んだのが、すべての始まりだった。
出演者は、高橋圭一、CERASUS VOCALIST WORKS、妄想キャリブレーション、ナチュラルポイント、ミラクルマーチ、HoneyHoney(メイドカフェ)、薬師るり——
そして、その中にでんぱ組.incの名前があった。
当時の私は、彼女たちの楽曲を一曲も知らなかった。
けれど、2013年から通っていた「ROCK IN JAPAN FESTIVAL(ロッキン)」でその存在を見かけたことはあった。
“なんとなく知っている”程度の認識で、ステージの後方に立ち、気軽な気持ちでライブを見始めた。
1.サクラあっぱれーしょん
2.VANDALISM
3.でんぱれーどJAPAN
4.ファンシーほっぺ ウ・フ・フ
5.サクラあっぱれーしょん
この日のセットリストは5曲。
夕暮れの光とサイリウムの揺らめきが交差する光景を、今でもはっきり覚えている。
初めて聴く曲ばかりだったが、激しいテンポとオタクたちのコールが一体となるその迫力に圧倒された。
最初の印象は「目まぐるしい」。アップテンポな展開に耳が追いつかず、歌詞を理解する余裕すらなかった。
しかし、3曲目のサビ、そして4曲目——。その瞬間、私の中で何かが変わった。
グリーン、パープル、レッド。
歌詞に合わせて色とりどりのサイリウムが一斉に掲げられ、観客の動きがステージと呼応する。
その光景を見たとき、「ああ、これはただのアイドルではない」と感じた。
それまで私が思い描いていた“明るく笑顔で踊るアイドル像”とはまるで違う。
彼女たちはエネルギッシュで、個性的で、そして何よりも“本気”だった。
その熱が、歌とダンスと表情を通して、真正面から伝わってきたのだ。
6人の中でも、ひときわ目を引いたのが、緑色の衣装をまとった長身の女の子だった。
私はサイリウムも持たず、ただ立ち尽くすように見ていた。
その時、彼女がまっすぐこちらを見て、笑顔で手を振った。
その瞬間、時間が止まったような気がした。
彼女の名前は——夢眠ねむ。
その日から数年間、私は彼女を人生で一番に推すことになる。
2018年|推しの卒業発表 ― 涙の夜と“おめでとう”の意味
2018年10月13日。
その日、私はいつも通りX(旧Twitter)を開いていた。
そしてタイムラインのトレンドに、見慣れた名前を見つけた——「夢眠ねむ」。
それは、当時の私にとって世界で一番大切な名前だった。
胸騒ぎを感じながら、そのトレンドをクリックする。
次の瞬間、画面に映し出されたのは——夢眠ねむの引退発表のニュースだった。

一瞬で頭が真っ白になり、指先が震えた。
理解が追いつかないまま、目の前の文字を何度も読み返す。
そして、気づけば涙が頬を伝っていた。
当時、私はニュージーランドに住んでいた。
それでも迷うことなく、スマホを握りしめたまま、日本行きの航空券を予約した。
「彼女の卒業公演だけは、どこにいても絶対に見届ける。」
それが、私の中で唯一の“約束”だったからだ。

アイドルという存在は、花火のように儚い。
眩しいほどに輝き、そして消えていく。
でも、その一瞬が確かに心を照らす。
——夢眠ねむを通じて、私はその教訓を身をもって知った。
彼女自身が以前、「秋葉原では“卒業”は“おめでとう”ですからね」と語っていたのを覚えている。
だからこそ、推しの卒業の瞬間には笑顔で「おめでとう」と言えるようになりたいと思っていた。
けれど、現実は想像よりもずっと苦しかった。
「おめでとう」より先に出てきたのは、ただ一言——「寂しい」。
それでも、私は自分に言い聞かせた。
これは“別れのため”ではない。推しの新しい門出を祝うためなんだ、と。

2018年|波乱のアイドル史を振り返る ― “緑の時代”の終焉
夢眠ねむが卒業を発表した2018年——それは、まさに女性アイドル界の転換期だった。
年明けから続々と卒業・解散のニュースが飛び込み、ファンたちは揺れ動く一年を過ごすことになる。
1月3日、私立恵比寿中学の廣田あいか(ぁぃぁぃ)が卒業を発表。
さらにそのわずか二週間後、ももいろクローバーZの有安杏果が卒業発表から5日後にグループを去るという衝撃的な展開を迎えた。
春を迎える頃には、PASSPO☆やアイドルネッサンスといった人気グループまでもが次々と解散を発表。
まるで、ひとつの時代が音を立てて終わっていくようだった。
当時の私は、ある共通点に気づいていた。
それは、「緑色のメンバー」が次々にステージを去っていったこと。
アイドルグループには、それぞれのメンバーに担当カラーがあり、ファンはその色のサイリウムを振って応援するのが定番だ。
ライブ会場は、推しカラーで染まるその瞬間こそが“ファンの誇り”でもある。
しかし2018年、卒業・脱退を発表したメンバーの中で、緑(グリーン)カラーを担当していたメンバーが目立った。
たとえば、廣田あいか(私立恵比寿中学)、有安杏果(ももいろクローバーZ)、今泉佑唯(欅坂46)、西野七瀬(乃木坂46)——
彼女たちはいずれも“緑”を背負っていた。
まるで、2018年という年が「緑の時代の終焉」を象徴しているかのように感じた。
そして、その流れの中で、私の推しである夢眠ねむもまた、ミントグリーンのメンバーカラーをまとい、卒業の時を迎えることになる。
アイドルの世界では色が“アイデンティティ”であり、ファンとの絆そのものだ。
だからこそ、彼女の卒業は、ただ一人のアイドルの節目というだけでなく、一つの時代の象徴的な幕引きのように感じられた。
アイドル卒業・解散 年表(2018〜2019)
<2018年>
01/03 廣田あいか(私立恵比寿中学)卒業
01/21 有安杏果(ももいろクローバーZ)卒業
02/24 アイドルルネッサンス 解散
03/21 ぷちぱすぽ☆ 解散
03.31 GEM 解散
04/22 生駒里奈(乃木坂46)卒業
04/30 北原里英(NGT48)卒業
06/18 和田彩花(アンジュルム/ハロー!プロジェクト)卒業
07/31 Cheeky Parade 解散
08/02 チャオ ベッラ チンクエッティ 解散
09/22 PASSPO☆ 解散
09/23 ベボガ! 解散
09/24 ベイビーレイズJAPAN 解散
10/07 バニラビーンズ 解散
10/19 YUIMETAL(BABYMETAL)卒業
11/04 山本彩(NMB48)卒業
11/04 今泉佑唯(欅坂46)卒業
11/25 X21 解散
12/16 飯窪春菜(モーニング娘。’18)卒業
<2019年(2018年発表)>
01/07 夢眠ねむ(でんぱ組.iinc) 卒業
01/11 渡邉ひかる・宮崎理奈・溝手るか・浅川梨奈・内村莉彩(SUPER☆GiRLS)卒業
02/23 妄想キャリブレーション 解散
02/24 西野七瀬(乃木坂46)卒業
03/34 つりビット 解散
04/28 指原莉乃(HKT48)卒業
こうして振り返ると、2018年はアイドル史における別れの年であり、同時に次世代のアイドル文化が再生していく“転換点”でもあった。
そして、ミントグリーンの光を放ち続けた夢眠ねむの卒業発表は、まるでその一年を締めくくる“静かなフィナーレ”のように感じられたのだ。
2019年|卒業、そして概念としての確立 ― ミントグリーンに包まれた武道館で
卒業公演が近づくある日、私は新宿タワーレコードで開催されていた「nemuqn shop」へ足を運んだ。
そこには、夢眠ねむの集大成とも言える1stソロアルバム『夢眠時代』の衣装が展示されていた。

展示パネルには、彼女へのメッセージが並んでいた。
「アイドルになってくれてありがとう。ユメミストになって良かった。」
その言葉を読んだ瞬間、胸の奥が熱くなった。
ファンとして抱き続けた想いが、形となって、目の前に現れていた。




そして迎えた2019年1月7日。夢眠ねむ 卒業公演 ― 日本武道館2DAYSの最終日。
外には彼女の門出を祝う無数の花々が並び、その中に見つけた一つの花——最上もがからの祝花に、私は息を呑んだ。
2017年8月6日。ROCK IN JAPAN 2017の帰りの電車で、最上もがの突然の引退を知って号泣したあの日の記憶が、鮮やかに蘇る。
卒業公演を見届けることもできず、喪失感だけが残っていた。
だからこそ、この日の武道館には、“いないはずの彼女”の想いも確かに存在していた気がした。
夢眠ねむの卒業公演は、最上もがへの「おめでとう」でもあったのだ。









この武道館という舞台は、でんぱ組.incにとって三度目。
最初は2014年――私がでんぱ組.incに出会った日の、わずか二日後。
二度目は2017年。そして三度目が、推しの卒業公演だった。

出会いから数年間、私はフェス、ライブ、握手会、生誕祭と、数えきれない現場に通った。
そのすべての想いが、この日のためにあったように思う。

ライブが始まると、涙が止まらなかった。
何度も涙を拭いながら、それでも目を離せなかった。
夢眠ねむは、アイドルとして完璧だった。
キャラクター、存在、言葉、しぐさ――そのすべてが、ひとつの“作品”のように完成されていた。
まるで、彼女自身の人生の卒業制作を目の前で見ているようだった。
そして、卒業後、彼女の声はVOCALOID「夢眠ネム」として受け継がれ、“人”から“概念”になった、と感じる。
もちろん、寂しさはあった。
でも、最上もがのときに感じた“喪失”を思えば、この日は推しを見送れる幸せを心から噛み締めていた。

会場全体がミントグリーンの光で包まれ、
『evergreen』、そして『絢爛マイユース』を歌い上げる彼女の姿は、本当に美しかった。
その瞬間、私は確信した——卒業は悲しみではなく、「おめでとう」なのだ。
そして、ライブ終盤、リーダーの古川未鈴が言った。
「この7人で最後に歌う曲は――」
その瞬間、全身に鳥肌が立った。
そしてイントロが流れたのは、あの伝説の楽曲『WWD BEST』。
この曲は、2016年末にリリースされたアルバム『WWDBEST 〜電波良好!〜』に収録された、
当時6人体制のでんぱ組.incを象徴する楽曲。
衣装もMVも歴代の要素が散りばめられ、まさに“6人の集大成”だった。
しかし、最上もがの卒業を機に、この曲は封印されていた。
「もう二度と聴くことはないだろう」と思っていたその楽曲が、夢眠ねむの卒業公演で一夜限りの復活を果たしたのだ。
会場中が悲鳴のような歓声に包まれ、紫のサイリウム(最上もがのカラー)も静かに揺れていた。
その光景は、まるで6人全員が再び揃ったかのようだった。
今この文章を書きながらでも、あの時の光景を思い出すと、視界が滲むくらいだ。
2021年|本屋、それは未来へと繋がって ― 夢眠ねむが紡ぐ「静かな物語」
夢眠ねむがでんぱ組.incを卒業してから、時は流れて令和3年(2021年)。
彼女は新たな舞台として、一冊の本屋を開いた。
その名も——「夢眠書店」。
「これからの本好きを育てる」をテーマに掲げた、本と人、そして未来をやさしく結ぶ“特別な書店”だ。
私がこの夢眠書店を訪れたのは、これまでに2回。
扉を開けた瞬間、外の世界とは違う静けさが広がっていた。
アイドル時代の彼女とは異なる、一人の女性としての夢眠ねむが、そこにいた。
言葉を交わすたびに感じるのは、彼女の芯の強さとやさしさ。
「夢眠ねむ」という存在は、形を変えてもやっぱり憧れの人だった。
店内は、古民家をリノベーションしたあたたかい空間。
木の香りが漂い、陽の光がやわらかく差し込む。
本棚には絵本や児童書が並び、キッズスペースには小さなおもちゃが置かれている。
大人も子どもも、どこか懐かしさを感じながら本と向き合える。そんな時間が、ここではゆっくりと流れていた。






店のカウンターには、夢眠ねむの実姉・maaさんが手がける温かい食事が並ぶ。
家庭的で、どこか「帰ってきた」ような安心感がある。
それらが本棚の空気と溶け合い、心地よい“暮らしのリズム”を奏でていた。
夢眠ねむを知らない人でも、この店を訪れればきっと「彼女の世界観」を感じられる。
それは、かつてステージで見せた夢の延長線上にある“日常の物語”だった。




夢眠書店の住所は非公開。来店するには事前予約が必要で、詳細は予約者のみに知らされる。
まさに、ファンの間で“秘密の書店”として知られている場所だ。
それでも、店舗に足を運べない人のために、定期的にオンライン通販やイベントも開催されている。
限定グッズやセレクト本の販売、トークイベントなど、夢眠ねむらしい優しい仕掛けが詰まっているので、ぜひチェックしてほしい。
まとめ
私はずっと、ずっと、夢眠ねむに憧れていた。
彼女のようになりたくて、髪型を真似し、メイクを研究し、カラオケでは歌い方まで真似した。
そして彼女の卒業から年月が過ぎ、私自身の生活も少しずつ変わっていった。
2025年、今。あの頃のように心を焦がすほどの“推し”には、まだ出会えていない。
それでも、胸を張って言えることがある。
あの時、夢眠ねむは、でんぱ組.incは、私の推しだった。
アイドルは、ただ歌って踊る存在ではない。
ライブに行くために仕事を頑張れたり、新曲を聴いて勇気をもらえたり、グッズを身につけて自分の「好き」を表現できたりする。
その一つひとつが、生きる力になる。
そして、その中心にはいつも夢眠ねむがいた。
彼女は私に、「推しとは何か」を教えてくれた。
それは単なる趣味や消費ではなく、人生を彩る“幸福の仕組み”そのものだった。
推しの存在は、人生の幸福度を上げる。
彼女から受け取った最高の贈り物。
私はこれからも、その価値観を大切に抱きしめながら生きていく。
あなたの心に残る、特別な体験がきっと見つかります。
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