映画『イエスタデイ』考察・感想|なぜビートルズは世界から消えたのか?12秒の停電が示す“音楽の記憶”

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「もし、世界からビートルズが消えたら?」
映画『イエスタデイ(YESTERDAY)』は、そんな突拍子もない設定から始まる物語です。

サブスクやYouTubeで音楽が溢れるこの時代に、“音楽が存在しない世界”を描いたこの映画は、どこか不思議で切なく、そして私たち自身の“記憶”を問うような作品でした。

今回は、映画『イエスタデイ』のあらすじと考察(ネタバレあり)を通して、「なぜビートルズが消えたのか」「12秒の停電の意味」そして“音楽を覚えていることの大切さ”について考えてみたいと思います。

目次

【ネタバレあり】映画『イエスタデイ』のあらすじ

主人公のジャックは、音楽を愛しながらも、なかなか芽が出ない。
田舎に住む、普通の青年でした。

ある晩、突然の世界規模の停電。その12秒間の間に、彼は交通事故に遭います。
目を覚ますと、世界からThe Beatlesが消えていた。

誰も「Yesterday」も「Hey Jude」も知らない。
インターネットにも存在しない。ジャックだけが、すべての曲を覚えていました。

彼はその曲を自分の作品として歌い始め、YouTubeで話題に。
やがてエド・シーラン(本人役)に見出され、ライブの前座に抜擢。
その後、エドのマネージャー・デブラにスカウトされ、アメリカへ渡り、一気にスターダムを駆け上がります。

しかし、 fame(名声)を手にするほどに、罪悪感が大きくなっていく――。

そして、彼の心を支えるのは、幼なじみで元マネージャーのエリー
売れてからも彼を想い続けるが、ふたりの距離は遠ざかっていきます。

やがてジャックは、ビートルズのゆかりの地・リバプールへ。
そこで偶然出会った二人の老人に、信じられない言葉を聞く。

「私たちは、The Beatlesを覚えている。」

彼らに導かれて訪ねたのは、この世界で静かに暮らす70代のジョン・レノン
ジョンとの会話によって、ジャックは“音楽の原点”に立ち返る。

彼はエドのライブで真実を明かし、「自分の歌はすべてビートルズのもの」と告白。
そして全曲を無料で公開し、音楽を“みんなの手に”戻す決断をする。

ラストでは、エリーと結ばれ、ジャックは故郷で子どもたちに音楽を教える道を選びます。

考察① なぜ世界からビートルズが消えたのか

映画の最大の謎はここです。
12秒の停電では、The Beatlesだけでなく「タバコ」「コカ・コーラ」「ハリー・ポッター」など世界的なアイコンが消えていました。

私の考察では、「“世界で一番”のものが消えたのではないか?」と言うことです。
英語で言うと、“THE”そのものが消えた世界とも言えます。

つまり、映画『イエスタデイ』は、「THEのない世界」=唯一無二が存在しない世界を描いているのではないでしょうか。

考察② 老人ふたりの正体は?

リバプールで出会う老人ふたり。
彼らだけが、主人公と同じようにThe Beatlesを覚えていた。

この二人もまた、元の世界の記憶を持つ人間だと考えられます。
つまり、停電によって「移行」してしまった少数の人間。

ただ、映画ではその理由を明確に描かない。
“なぜ”を残すことで、観る人それぞれに考えさせる余白を与えているのです。

考察③ 12秒の意味と“時間”というテーマ

なぜ「10秒」でも「15秒」でもなく、「12秒」なのか?

私が思い浮かべたのは時計
12という数字は、時間を象徴します。

つまりこれは「時のずれ=世界線のズレ」を暗示している。
12秒の間に、世界の時間が少しだけ“未来へ飛んだ”。
その間に、文化の象徴や歴史が失われた――
そんなメタファーとして描かれているように思います。

『イエスタデイ』が伝えたかったこと

映画を観ながら、私はふとSMAPを思い出していました。
テレビや街からその名前が消えたとき、「言葉にされなければ、音楽は本当に消えてしまう」と感じたからです。

この映画が教えてくれるのは、“誰かが歌い続ける限り、音楽は生き続ける”ということ。

たとえ名前が忘れられても、旋律や言葉が心に残る限り、それは生きている。
ジャックがThe Beatlesの曲を歌い続けたように、記憶の中で音楽をつなぐことこそ、最大の敬意なのだと思います。

感想:悪人がいない、不思議な優しさのある映画

『イエスタデイ』には、敵も悲劇もほとんどない。
なのに、ずっと心を掴まれ続ける。

テンポ良く進むストーリーの中に、「音楽とは何か」「名声とは何か」という問いが隠れている。

主演俳優の歌声は本当に素晴らしく、劇場全体が自然とリズムを刻んでいた。

観客は若者から大人まで幅広く、若者はエド・シーラン目当て、大人はビートルズ目当て。
でも、ラストシーンではすべての世代が同じ方向を見ていた。
それこそがこの映画の魔法だと思います。

まとめ

誰かが口にしなければ、音楽は消える。
でも、覚えている人がいる限り、音楽は死なない。

『イエスタデイ』は、その当たり前のことを、やさしく、そして静かに思い出させてくれる映画でした。

良い音楽は、形ではなく記憶の中で生き続ける。
この作品は、そのことを私たちに教えてくれます。

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uta
関東在住の30代。
WEBデザインやWEBライティングを仕事とし、言葉とデザインの力で「誰かの人生を動かす」ことを信念とし、日々精進中。
日本国内はもちろん、世界を旅しながら、音楽・映画・旅行を綴り、未来へ紡ぐ。
自然や海、星空に心惹かれ、旅先での出会いや縁を大切にしている。
英文科出身のバックグラウンドを活かし、国内外のカルチャーに触れながら、日々新たな発見を求めている。
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